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Tristan + Isolde トリスタンとイゾルデ

アメリカ・イギリス映画 (2006)

アーサー王伝説に登場するコーンウォール王マルク(Mark)にまつわるトリスタンとイゾルデの伝承を、大幅に脚色した歴史ロマン。トーマス・サングスター(Thomas Sangster)が、少年時代のトリスタンを演じる。ただし、登場するのは、オープニングクレジットの終わった01:25から13:00までの11分半だけ。ここでは、『トリスタンとイゾルデ』の背景について解説しておこう。よく引き合いに出されるのが、フォーウィ(Fowey)に移設されて残っている古い石碑で、そこには、「Drustanここに眠る/Cunomorusの息子/Ousilla妃と共に」と記されている青字の部分は現在滅失し、1540年頃に古物研究家のJohn Lelandが残した記録による〕。ここで、Drustaは “Tristan”、Cunomorus は “Conomor, King of Dumnonia”、OusillaはEseltのラテン語標記 の “Isolde” と されている。もし、それが正しければ、『トリスタンとイゾルデ』は単なる伝承ではなく現実の歴史となる。しかし、Cunomorusが誰なのか、実際はよく分かっていない。古代ブリタニアとアーサー王伝説両方を分析したDavid Nash Fordのサイト(http://www.earlybritishkingdoms.com/index.html)によれば、この人物が “Conomor 〔ラテン標記Cunomorus〕, King of Dumnonia”(生年395年頃)だという俗説は間違いとしている。息子の名前もConstantine Corneuであって、碑文のDrustaではない。Cunomorusは もう一人存在し、それが “Conomor, Prince of Poher” (生年460年頃)。こちらは、現フランスのブルターニュ〔当時はブリテン領~ブルターニュの英語標記はBrittany〕の領主なので、コーンウォールとは無関係。結局、この碑は誰のものなのかよく分からないというのが結論。一方、映画の舞台はコーンウォールではなく、ウェールズのケレディジョン(Ceredigion)地方。この地域について、ウイキペディアでは、「ローマが撤退した後、アイルランド人が襲撃したが、Cuneddaと思われる人物により侵略は撃退された」としている。この点については、上記のサイトにも、“Cunedda Wledig, King of North Wales”(生年380年頃) が、侵略するアイルランド人と戦ったと書かれている。このCuneddaでも救えなかったアグルシー島〔北ウェールズ〕は、“Meilir Meilirion, King of Meilirion” (生年460年頃)がアイルランド人から解放したとあるので、5世紀にアイルランド人がウェールズに出没していたことは確かなようである。一方、映画のアイルランド側は、レンスター(Leinster)地方。こちらの4~5世紀の歴史を見ると、ローマ軍が放棄した間隙をついて、北ウェールズのアグルシー島、現カーナーヴォン郡、デンビー郡に住みついたとある。だから、映画の中で、ウェールズが多くの領主によって分散統治されていたこと、それに対し、アイルランド側はレンスター〔アイルランドの中央東部〕の王が中央集権的な力でウェールズを狙っているとする構図は、歴史的にみても不自然ではない。

トリスタンは、領主アラゴンの一人息子として生まれ、剣術や狩りに長けた少年として順調に育っていた。しかし、侵略をくり返すアイルランド人に対抗して、父が、領主を一同に集めた会合を自分の砦で開いたことで運命は一変する。内通者が会合のことをアイルランドに知らせた結果、砦は圧倒的多数のアイルランド人の兵に襲われ、トリスタンの父母は殺されてしまう。そして、トリスタンの命を、身をもって庇い、右手首を失った領主マルクに引き取られる。トリスタンが、持ち前の剣の技を発揮できるまでに回復したところで、少年時代のパートは終わる。

トーマス・サングスターの出番は僅か。トーマスとしては初めての歴史劇。偶然、次の映画 『The Last Legion(最後のローマ軍団)』(2007)と同じローマ崩壊後のブリタニアが舞台となる。父と母が同時に敵に殺される点も似ている。ただし、こちらのトーマスは剣の名手。


あらすじ (少年時代のみ)

ウェールズの荒涼とした山地が映る〔撮影は、アイルランドのコネマラ山地〕。そこでウサギ狩りをする親子。少年トリスタンが、高い草に隠れてじっとウサギを見ている(1・2枚目の写真)。右手にはナイフが握られている。ウサギが動きかけた瞬間、ナイフが突き出される。次のシーンでは、父が、「俺が最初に獲った時より1年早かったな」と言うと、トリスタンは、「いつ牡鹿を獲らせてくれる?」と訊く〔ケルト族の間では、狩猟の神ケルヌンノスが牡鹿と共に描かれることが多いが、これは牡鹿が主要な獲物であったことを意味している〕。トリスタンが、子供の時から 優れた運動神経の持ち主であったことを覗わせる会話だ。途中、父がトリスタンを肩にかつぐシーンがある(3枚目の写真、矢印はウサギ)。2人の仲の良さも よく分かる。トリスタンは、その日の会合について訊く。「なぜ、アイルランド人に対して団結しようとするの?」。「誰かが、立ち上がらないといけない」。「父さんが?」。「俺や、マルク、全部族だ。一人じゃ反撃できん」。「僕ならできるよ」。「小さな つわものだな」。
  
  
  

2人が、砦に戻って来ると、領主が続々と城門から入ってくる(1枚目の写真)。城門といっても、丸太を立てただけの簡単な構造物だ。父は、「何もなしで帰ると、お前の母上に嫌われるぞ」とトリスタンを去らせ、No.1の部下から報告を受ける。「アングル人が到着しました、頭領。ケルトはもちろん、友好的なジュート人や、サクソン人もです」。「そうか。マルクが来れば全員だな」(2枚目の写真)。背後に映っているのが、会合の行われる館。すべて丸太で造られた原始的な建物だ〔ブリタニアの北東部の沿岸にいるアングル人(ユトランド半島南部から移住してきた侵略者)や、同東南端にいるジュート人(ユトランド半島北部から移住してきた侵略者)、同南部にいるサクソン人(現北ドイツから移住してきた侵略者)が、なぜ来ているのか分からない。アイルランドからの侵略を受けているのは、ウェールズのケルト人の領地だけなので、このような会合があったとしても、広範囲の異民族を集結させる必要はない〕。一方、トリスタンはジャノメエリカ(?)の枝を編んで作った腕輪を、「母上、これ僕が作った」と言って 渡す(3枚目の写真、矢印は腕輪)。母は喜んで腕にはめる。
  
  
  

会合の行われる大部屋の一角で、トリスタンはさっき獲ったウサギを串に刺して丸焼きにしている(1枚目の写真)。そこから見える部屋の中央では、父が立ち上がり、「友よ。これを見てくれ。ブリタニアの部族だ」と言って、1枚の大きな地図を見せる(2枚目の写真)。そして、「分裂している。弱い。アイルランド人どもが望んでいるように。だが、もし、我らが一つにまとまれば、奴らを2対1で凌ぐだろう。さすれば、奴らを永遠に放逐できる。それが、今日、ここに集まって頂いた理由だ。統一の盟約に署名をお願いしたい」と演説する〔先に書いたように、4部族の会合などあり得ない。5世紀にウェールズ沿岸を侵略していたアイルランドの王国はレンスターだけで、アングル人、ジュート人、サクソン人は利害関係ゼロ〕。「誰が王になる?」。「我々の中で最強の者、マルク領主だ」〔アーサー王伝説に出てくる “Mark of Cornwall” のこと〕。トリスタンは、母が、腕輪を外さないでいるのを見て、微笑む(3枚目の写真)。
  
  
  

マルクは率先して署名する(1枚目の写真、矢印は盟約の紙)。その時、「敵だ!」との叫び声が聞こえる。部下が、「アイルランド人です!」と報告に来る。誰かが内通したのだ。攻めて来た敵の数は、砦の兵を遥かに上回っている。敵は、建物に火を放ち、館への階段を駆け上がる(2枚目の写真)。勝気なトリスタンは食卓に置いてあったナイフを手に取ると 敵に向かって行こうとするが、父に引き戻される(3枚目の写真、矢印はナイフ)。「戦わせて!」の頼むが、床下の隠れ場所に無理矢理入らされる。
  
  
  

大部屋の中での戦闘が終わり、静かになる。外は一面火の海だ(1枚目の写真)。トリスタンの手には、床から落ちてきた血が流れている。床の蓋を開け、トリスタンが顔を出して最初に見たものは、絶命した父だった(2枚目の写真)。そして、立ち上がって見回すと、先ほど渡した腕輪をはめた母も倒れている(3枚目の写真、写真は腕輪)。こうして、トリスタンは、一度に父と母の両方を失った。
  
  
  

しかし、それで終わったわけではなかった。茫然と立ち尽くすトリスタンに向かい(1枚目の写真)、敵が剣を持って襲いかかる。トリスタンは身動き一つしない。しかし、生き残っていたマルク領主がそれに気付き、トリスタンの体を突き倒す。しかし、代わりに押した腕が剣で切られ、右手首が飛んでいく(2枚目の写真、点線は刃の動線、点線の左がマルクの右腕、矢印は切り離された右手首の飛ぶ方向)。血しぶきがトリスタンの顔にかかる。マルクは、とっさに左手で短剣を抜くと敵を殺し、切られた手首を縛って止血する。一足遅れて部屋に入ってきた父のNo.1の部下が、トリスタンを心配して駆け寄る(3枚目の写真、トリスタンの顔にはマルクの血が飛んでいる)。
  
  
  

場面は替わり、マルク領主の砦の手前の石橋を馬車が渡っている。中央に右手首を失ったマルク、そのすぐ後ろをトリスタンが歩いている(1枚目の写真)。マルクの砦もアイルランド軍に襲われ、多くの建物が焼け落ちている。女性が1人、マルクに駆け寄ってきて、手首を見て泣いて抱きつく。「夫はどうした?」。泣き続ける女性。「妹よ、気の毒に」。妹は、「処刑は 丸一日続いたわ。奴ら、楽しんでた」。「老人から子供までか?」。「あれ、誰なの?」(2枚目の写真)。「トリスタン、アラゴンの息子だ。我々が彼の面倒を見る」。それを聞いた妹は、トリスタンが父母を失ったと悟り、トリスタンの前まで行くと、「あなたと同じ年頃の子がいるの」と話しかける(3枚目の写真)。そして、「メロー」と、息子を呼び寄せる。将来、トリスタンと宿命のライバルとなる少年だ。一方、マルクは、先の会合の際、「私の妻は子を宿している」と話していたが、妹以外誰も迎えに来ないので、妻と後継ぎの双方を亡くしたことを悟る。
  
  
  

それから どのくらい日が経ったのかは分からないが、砦では再建が始まっている。大人たちが総出で木材を刻む中で、子供たちは剣の練習に勤しんでいる。「トリスタンが戦わない。きっと怖いんだ」。トリスタンは、兜を脱いでしまう(1枚目の写真)。それを見たマルクは、「まだ 戦おうとしない」と不満顔だ。以前、トリスタンの父に仕えていて、今はマルクのNo.1の部下になった男が、「あの子は、獅子のように勇敢です。もう少し時が必要です」と取り成す。メローは寄っていくと、「なぜ兜を取った? 泣き出すのか?」と訊きながら、トリスタンの肩を強く押す。「僕の父も死んだ。だが、僕は泣かなかったぞ。お前は、また床下に隠れるのか? この弱虫」。怒ったトリスタンは猛然と剣を振るう。見事な剣さばきで、メローを地面に押し倒し(2枚目の写真)、残りの2人も蹴飛ばし、メローにとどめをさそうとした時、No.1の部下が「トリスタン!」とストップをかける。それを聞いて、剣を投げ捨てるトリスタン(3枚目の写真)。マルクは、見直したようにトリスタンを見ている〔将来、マルクは、妹の子メローではなく、トリスタンを後継者に選ぶ〕
  
  
  

トリスタンは、そのまま子供たちから去って行く(1枚目の写真)。それと全く同じ構図で、歩いている人物が大人になり(2枚目の写真)、「9年後」と表示される。ここからが、本編の始まりだ。大人になったトリスタンを演じるのはジェームズ・フランコ。砦もかなり復興している。
  
  

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